高齢者が賃貸物件を借りたいと思って契約をしようとしても貸主から契約を断られることがあります。
高齢者へお部屋を貸す際にはいくつかの心配事があります。
- 死亡リスク
- 健康リスク(認知症など)
- 家賃滞納リスク など
特に心配なのが死亡リスクです。
貸室の中で亡くなると告知事項ありとして次の借主にその事実を告知しなければならず、次の入居が決まりにくくなる可能性があります。
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また、貸室で亡くならなくても残地物処理の問題が出てきます。
賃貸借契約は借主の死亡では終了しませんでの借主の地位は相続人が引継ぎます。
亡くなった借主の所有物も貸主が勝手に処分できませんので相続人に処理をしてもらう必要があります。
相続人がしっかりと対応してくれればあまり問題はありませんが、中には相続を放棄する相続人もいます。
その場合には処理が完了するまで時間と費用が発生する可能性があります。
このような理由で高齢者が賃貸物件を借りるのは難しくなります。
この問題を解消するべく国土交通省が残地物処理をめぐるモデル契約条項を作りました。
【残地物の処理等に関するモデル契約条項】
国土交通省が作った残地物の処理等に関するモデル契約条項は高齢者が賃貸借契約を結ぶ際に高齢者が死亡した際の契約解除や残地物の処理についての取り扱いを予め取り決めておくというものです。
この契約条項は基本的に60歳以上の単身者を想定しています。
高齢者は賃貸借契約を結ぶ際に、賃貸借契約とは別に「受任者」と以下の2つの事項について委託契約を結びます。
1賃貸借契約の解除に係る代理権
委任者は,受任者に対して,委任者を賃借人とする別紙賃貸借契約目録記載の賃貸借契約(以下「本賃貸借契約」という。)が終了するまでに賃借人である委任者が死亡したことを停止条件として,①本賃貸借契約を賃貸人との合意により解除する代理権及び②本賃貸借契約を解除する旨の賃貸人の意思表示を受領する代理権を授与する。
残置物の処理等に関するモデル契約条項(案)
借主である高齢者が亡くなった場合に契約を解除する権利を受任者に与えるというものです。
契約解除に関しては受任者からの契約解除を通知するのはもちろん、貸主からの契約解除の意思表示を受け、契約解除をすることができます。
この委任契約を結ぶことにより借主死亡後の契約解除の手続きがスムーズになります。
2置物関係事務委託契約
委任者は,受任者に対して,本賃貸借契約が終了するまでに委任者が死亡したことを停止条件として,次に掲げる事務を委託する
①本賃貸借契約の終了後,廃棄残置物を廃棄し,又は換価する事務
② 本賃貸借契約の終了後,非廃棄残置物を指定された送付先に送付し,換価し,又は廃棄する事務
③ 本賃貸借契約の終了後,本物件内に存した金銭を委任者の相続人に返還する事務
残置物の処理等に関するモデル契約条項(案)
借主である高齢者が亡くなった後に残る残地物に関する契約です。
借主が死亡しても貸主が残地物を勝手に処分(売ったり捨てたりすること)はできません。これも上記と同様相続人がしっかりと対応してくれればいいのですが、相続放棄をされると残地物の処理に時間がかかってしまいます。
この契約結んでおくことで残地物の処理がスムーズに行えます。
誰が「受任者」となるのか
国土交通省が想定している「受任者」は以下の通りです。
- 借主の法定相続人
- 居住支援法人、社会福祉法人など
- 管理業者
法定相続人であれば賃貸借契約では連帯保証人として、委任契約では受任者として手続きをすることになり、一番スムーズになります。
そのような方がいない場合には居住支援法人や社会福祉法人、それでも難しい場合には管理業者が想定されます。
今後の影響
2021年3月にはこの委任契約書の公表が予定されています。
実際に活用が進むと高齢者の部屋探しがしやすくなります。
先日あるオーナー様の物件に入居中の高齢生活保護者が孤独死をされました。
契約の解除と残地物の処理について相続人は相続を放棄するので自分はなにもしないとのことでした。
結局残地物の処理に関しては相続人と話が纏まりましたが、次からこのオーナー様は高齢者に部屋を貸すことを渋られると思います。
このようなこともあり、現状としては高齢者への貸し出しを渋る貸主がいることは事実です。
このような取り組みにより高齢者も部屋をスムーズに借りることができるようになるといいですね。